iDeCoで積み立てたときに節税効果があるのはわかったけど、老後に積み立てたお金を受け取るときも何かメリットはあるのか教えて!
そうですね、iDeCoは運用しているときだけでなく、積み立てた資産を受け取るときにも税制の優遇措置を受けることができます。
税制上、イデコの加入者が受けることができるiDeCoのメリットは、大きくわけて3つあります。
- iDeCoの3大メリット① 【所得税と住民税が軽減されてお得】
- iDeCoの3大メリット② 【利益が非課税になってお得
- iDeCoの3大メリット③ 【受け取る時に税制の優遇を受けられてお得】
この記事では、iDeCoの3大メリットの③番目である 【受け取る時に税制の優遇を受けられてお得】という点について、長年積み立ててきた資金を老後に受け取るときの注意点や受け取り方も含めてお伝えしていきたいと思います。
iDeCoの3大メリット① 【節税効果】とメリット②【利益が非課税】についてはこちらの記事に詳しく説明しています。
iDeCoの積み立て金を受け取る方法
iDeCoで長年積み立ててきたお金は、60歳以降70歳までの間に、一時金または年金方式という形で受け取ります。
※2020年5月29日に年金関連法案が可決、成立して、iDeCoの受け取り開始時期は60歳~75歳の間に延ばせるようになりました!
受け取る方法は、この3つの中から希望する方法を選びます。
- 一度にまとめて一時金として受け取る
- 5年から20年といった期間、年金として毎年受け取る
- 一時金と年金の組み合わせ
それぞれに税制上のメリットがあります。
iDeCoの運用金を受け取るときのメリット(1) 【一時金としてまとめて受け取る場合】
60歳以降に運用してきた資産を一時金として受け取る場合、受け取るお金は「退職所得」という扱いとなります。
これが一時金として受け取る場合の税制上のメリットとなります。「退職所得」の扱いになると、税金を低くすることができるからです。
退職所得とは、受け取るお金から退職所得控除額を引いた金額の50%(半分)の金額です。
退職所得=(退職金−退職所得控除額)× 50%
そしてこの退職所得に応じて個別に税率がかけられ、退職金にたいする所得税と住民税が計算されます。
所得税の計算方法の例をみてみましょう
例えば、iDeCoで運用してきたお金が総額で300万円、退職所得控除額が200万円であったとします。
この場合、退職所得は50万円 ((300万円-200万円)× 50%)となります。この退職所得50万円に対して所得税と住民税がかかる計算となります。
<画像を挿入>
もし退職所得控除額が、受け取るお金より大きい場合は、退職所得が▼(マイナス)となるため税金はかかりません。
退職所得は、分離課税といった税金の計算ルールがあり、退職所得に対して個別に税率を乗じて税金を算出する仕組みになっています。
所得税は以下の速算表から計算します。住民税は一律10%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 ~ 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 ~ 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 ~ 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 ~ 1,800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1,800万円超~ 4,000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6000円 |
上の例では退職所得が50万円だったので、所得税は5%(速算表)になります。
住民税は一律10%ですので、あわせて15%が税率となり、課税される税金は、75000円(50万円×15%)となります。
iDeCoの退職所得控除の金額について
さらに、退職所得控除額についてもうすこし詳しくみていきましょう。
計算式がかなりややこしく感じるかもしれませんが、大切なことなので税計算の例も含めて解説していきます。
退職所得控除額は、以下の表のように定められています。
これは会社員の方などが定年時に受け取る退職金などの一時金に対し、支払う税金を計算するときに用いられるものです。
iDeCoで運用してきたお金を一時金として受け取る場合も、これとまったく同じ計算が適用されます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
(80万円未満の場合は、80万円) | |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
この表の中の勤続年数が、iDeCoではiDeCoの加入年数となります。加入年数が1年未満の場合は切り上げられます。
それでは、iDeCoの運用金を一時金で受け取った場合の退職所得控除について、自営業者の場合と会社員の場合の2つのパターンでみていきましょう。
自営業者がiDeCoの運用金を一時金で受け取る場合
例として、iDeCoに22年3カ月加入した自営業の人が、iDeCoで運用してきたお金1,000万円を一時金で受け取る場合の税金の計算をみていきましょう。
勤続年数はiDeCoの加入年数となり1年未満は切り上げられて23年。上記の表の20年超のカテゴリーに入ります。
退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(23年-20年)= 1,010万円
退職所得:(1000万円-1010万円)× 1/2 = ▼5万円
税金計算の基礎となる退職所得が▼(マイナス)となりました。よって、この場合では、自営業者であれば税金を納める必要はありませんね。
会社員がiDeCoの運用金を一時金で受け取る場合
会社員の場合は、お勤めの会社を退職されたときに、会社から退職金を受け取る人もいると思います。
※iDeCoの一時金と通常の退職金(会社員の退職金、確定給付型企業年金、中退共、小規模企業共済など)をあわせて受け取る場合は、① iDeCoの一時金と同じ年に受け取る、② 一定期間をおいて別々に受け取る、このどちらを選ぶかで税金が異なる場合があるので、注意が必要です。
iDeCoの一時金と通常の退職金を同じ年に受け取る場合のルール
会社員が、同じ年に複数の一時金を受け取る場合は、以下の3つのルールが適用されます。
- iDeCoの一時金と通常の退職金は、合算して「収入」扱いとなる。
- 退職所得控除の勤続年数・加入年数は、どちらか「長いほうの年数」が適用される。
- 勤続年数および加入年数の内、重複していない期間があるときは、その年数を加算できる。
それでは具体例でみていきます。
会社員が同じ年に複数の一時金を受け取る場合の税金の計算 ①
<計算例の条件>
勤務期間:30歳から60歳までの30年間
iDeCo:40歳から60歳までの20年間加入
退職金:1500万円
iDeCoの一時金:500万円
<適用される金額と年数>
収入金額:1500万円+500万円 = 2000万円(収入は合算される)
勤続年数:30年(長い方が適用される)
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
(80万円未満の場合は、80万円) | |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職所得控除額:800万円+70万円(30年-20年)=1500万円(勤続年数は長い方)
退職所得:(2000万円-1500万円)×50%=250万円
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 ~ 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 ~ 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 ~ 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 ~ 1,800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1,800万円超~ 4,000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6000円 |
所得税:250万円×10%-9万7500円=15万円2500円(所得税速算表から計算)税金の計算は、所得税は速算表から計算。住民税は10%です。
住民税:250万円×10%=25万円(住民税10%)
所得税と住民税の合計:40万2500円
会社員が退職金とiDeCoの運用金を一時金としてまとめて受け取る場合、税金の合計は40万2500円となりました。
iDeCoの一時金と通常の退職金を一定期間おいて別々に受け取る場合のルール
会社員が、iDeCoで積立したお金と一般の退職金を異なる年に受け取る場合は、以下の2つのルールが適用されます。
- iDeCoのお金を受け取る前年以前、14年以内に他の退職金を受け取っている場合、退職所得控除の枠は合算される。
- 一般の退職金を受け取る前年以前、4年以内に他の退職金を受け取っている場合は退職所得控除の枠は合算される。
最初にもらう退職金は、(収入金額-退職所得控除額)× 50%で計算します。
ですが、後からもらう退職金の退職所得控除額は、前にもらっている退職金と重複している勤続年数・加入年数がある場合、その重複年数を差し引かなければなりません。
少し複雑なので、一定期間置いて受け取る場合を具体例でみていきます。
会社員が別の年に複数の一時金を受け取る場合の税金の計算 ②
基本的な条件は、先ほどと同じにします。
<計算例の条件>
勤務期間:30歳から60歳までの30年間
iDeCo:40歳から60歳までの20年間加入
退職金:1500万円
iDeCoの一時金:500万円
会社員の方が60歳になって定年退職の退職金1500万円を受け取り、62歳になってiDeCoで運用してきた一時金500 万円を受け取った場合をみてみます。
定年退職した会社は、30歳から60歳まで30年間勤務。iDeCoは、40歳から60歳まで20年間加入。
このため、重複期間は20年です。
最初にもらう退職金は、(収入金額-退職所得控除額)×50%で計算します。
収入金額:1500万円、勤続年数30年。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
(80万円未満の場合は、80万円) | |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職所得控除額:800万円+70万円(30年-20年)=1500万円(勤続年数は30年)
退職所得:(1500万円-1500万円)×50%=0万円
よって最初にもらう退職金の税金は0円(非課税)となります。
続いて62歳になってもらうiDeCo一時金の税金を計算します。
収入金額:500万円。
勤続年数はiDeCoの加入年数20年ですが、iDeCoのお金を受け取る前年以前、14年以内に他の退職金を受け取っていることになります。
よって、前にもらっている退職金と重複している勤続年数・加入年数を差し引かなければなりません。
iDeCo勤続年数は、20年-20年=0年となり、あとからもらうiDeCo一時金の退職所得控除額は40万円×0年で0円となります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
(80万円未満の場合は、80万円) | |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職所得控除額:0円(勤続年数は0年)
退職所得:(500万円-0万円)×50%=250万円
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 ~ 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 ~ 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 ~ 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 ~ 1,800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1,800万円超~ 4,000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6000円 |
税金の計算は、所得税は速算表から計算。住民税は10%。
所得税:250万円×10%-9万7500円=15万2500円(所得税速算表から計算)
住民税:250万円×10%=25万円(住民税10%)
合計:40万2500円
最初にもらった退職金にかかる税金が0円
あとでもらうiDeCo一時金の税金が40万2500円
この場合、税金の合計は、40万2500円となります。
上記の計算の例では①と②では、同じ年に受け取っても、受け取る時期をずらしても税金の金額は同じ結果になりました。
しかし、会社の勤続年数、退職金の金額、iDeCoの加入年数、iDeCoで積立てたお金の総額、受け取る時期で税金は変わってきます。
20代から50代前半まではあまり気にしなくても良いかもしれません。
でも、60歳近くになって受け取りを始める人は、早めに金融機関の専門家などに相談して、どのような形で一時金を受け取るのが自分にとっていちばん良いかの比較検討を行うことも大切になってくると思います。
iDeCoの運用金を受け取るときのメリット(2) 【年金として受け取る場合】
つぎに60歳以降に運用してきた資産を、年金として受け取る場合をみていきます。
年金として受け取る場合、受け取るお金は「雑所得」というあつかいとなります。これが年金としてお金を受け取るときの税制上のメリットです。
雑所得というあつかいとなることで、受け取るお金から公的年金等掛金控除額を差し引くことができるのです。
公的年金等に係る雑所得=公的年金等の総収入金額-公的年金等掛金控除額
この計算式で、公的年金等控除額が大きければ大きいほど雑所得が小さくなり、税金も少なくなります。
なお公的年金等掛金控除額は、他の公的年金などの収入と合算して算出されるので注意が必要です。企業年金や公的年金とiDeCo年金を合算した収入合計に対して公的年金等控除額が決まってきます。
そして上記計算式から算出された雑所得にたいして課税される仕組みです。
公的年金等に係る雑所得の速算表(平成17年分から令和元年分まで)
年齢 | 公的年金等の収入金額 の合計額/年 |
公的年金等に係る 雑所得の金額/年 |
65歳未満 | 70万円以下 | 0円 |
70万円超130万円未満 | 70万円 | |
130万円以上410万円未満 | 年金収入×75%-37万5000円 | |
410万円以上770万円未満 | 年金収入×85%-78万5000円 | |
770万円以上 | 年金収入×95%-155万5000円 | |
65歳以上 | 120万円以下 | 0円 |
120万円超330万円未満 | 120万円 | |
330万円以上410万円未満 | 年金収入×75%-37万5000円 | |
410万円以上770万円未満 | 年金収入×85%-78万5000円 | |
770万円以上 | 年金収入×95%-155万5000円 |
iDeCoの掛け金を年金として受け取る場合の具体例をみてみましょう
<具体例の条件>
- 年齢:66歳
- iDeCoと公的年金:年間500万円
例えば、66歳でiDeCo年金と公的年金をあわせて年間で500万円を受け取った場合、上の表の計算式をあてはめると、雑所得額は346万5000円(500万円×85%-78万5000円)となります。
この雑所得の346万5000円に対して税金がかかってくることになります。
また令和2年以降からはこの雑所得の計算が一部変更される予定です。
例えば、公的年金などにかかってくる雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合、速算表は以下のとおりとなります。
年齢 | 公的年金等の収入金額 の合計額/年 |
公的年金等に係る 雑所得の金額/年 |
65歳未満 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 60万円 | |
130万円以上410万円未満 | 年金収入×75%-27万5000円 | |
410万円以上770万円未満 | 年金収入×85%-68万5000円 | |
770万円以上1000万円未満 | 年金収入×95%-145万5000円 | |
1000万円以上 | 年金収入×100%-195万5000円 | |
65歳以上 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 110万円 | |
330万円以上410万円未満 | 年金収入×75%-27万5000円 | |
410万円以上770万円未満 | 年金収入×85%-68万5000円 | |
770万円以上1000万円未満 | 年金収入×95%-145万5000円 | |
1000万円以上 | 年金収入×100%-195万5000円 |
年金としてiDeCoで運用してきたお金を受け取る場合でも、将来受け取る公的年金や企業年金がどのくらいの金額になるのか、企業年金や公的年金を何歳で受け取ることができるかなどを確認して、iDeCo年金を何歳でもらうべきかについて考えることが必要になってきますね。
iDeCoのつみたて金を一時金と年金を併用して受け取る場合
iDeCoで積立したお金は、これまで解説した一時金で受け取る方法と年金として分割で受け取る方法を併用することも可能です。
併用でお金を受け取る場合も、あらかじめ一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合の両方でかかる税金を確認しておくことはもちろん重要です。
さらに、将来受け取ることができる公的年金額や退職金がどの程度なのかもあわせて、良く試算した上で事前に検討しておくことが大切になってきます。
まとめ:iDeCoの3大メリット③ 【受け取る時に税制の優遇を受けられてお得】
iDeCoで長年がんばって運用してきた拠出金は、一時金で受け取ることもできますし、年金として受け取ることもできますし、さらに一時金と年金とを組み合わせて受け取ることもできます。
会社員の人の場合は、iDeCo以外に受け取る退職金や公的年金との関係で、課税される税金の金額も変わってきます。
iDeCoの運用金を受け取る年齢に近くなってきたら、なるべく支払う税金を少なく抑えられるように、しっかりと事前に調べておきたいですね。
こちらの本が参考になりました
ほかにもiDeCoについていろいろな記事を書いていますので、あわせてごらんくださいね。