NHKの大人気シリーズ、ブラタモリ。見ているだけで癒されるし、勉強にもなります。その土地の歴史、秘話、地形に残された痕跡に出会いながら、街の新たな魅力・文化などを再発見していく番組です。
いつの日かその土地に行くチャンスがあったならば、その前にブラタモリの記録を読み返しておくことで何倍も楽しむことができると思い、番組の内容を忘れないうちに、このブログの中に「ブラ記録」としてポイントだけを記しておきたいと思います。
なぜ黒部ダムはわざわざ秘境に作られたのでしょうか?
黒部ダムは富山県の南東部、北アルプスの囲まれた一帯にあります。黒部ダム建設は昭和30年代高度成長期にできた東京タワー、青函トンネルとならび戦後の一大事業、世紀の大事業と言われています。
日本は戦後復興の中で産業が急速に発展し深刻な電力不足になりました。特に関西方面では工場で週5日、一般家庭では週3日電力が制限され大きな社会問題となっていました。
この問題を解決するために水力発電用の巨大ダムの建設が行われたのです。工期7年、作業員のべ1千万人、総工費513億円をかけ昭和38年に完成しました。
扇沢駅からトンネルトロリーバスで向かいます。トロリーバスは電気で動くバスで日本では黒部にしかなかったのですが平成30年で運行廃止となりました。現在は電気自動車になっているようです。
もともと扇沢駅から黒部ダムにむかう全長4.5㎞のトンネルはダム建設に必要な資材を運ぶために作られたトンネルでした。トンネルができるまでは岩肌にそって2-3日かけて建設機材を運ぶしか方法がなかったのです。
このトンネル建設は非常に過酷なものでした。トンネル内には「破砕帯」と呼ばれている場所があり、非常に冷たい地下水と崩れやすい土砂で覆われた一帯であったため建設に時間と労力を要しました。
トンネル建設は1日に約9m進んだのですが、この破砕帯80mの工程にかかった日数は7カ月(1日あたり約40㎝)でした。
トンネルは長野側(扇沢ルート)と逆側の富山側(立山ルート)からも掘り進められ、着工から1年7か月後に貫通しました。トンネル内には「貫通点」の標記があります。扇沢ルートと違い、立山ルートはトンネルを掘るための機材を人力で運び、組み立てて使用しました。
こうして黒部ダムを建設するための資材を大量に運ぶことが可能となるトンネルが出来上がり、黒部ダム建設が本格的にスタートしました。
黒部ダムは水力発電用の巨大ダム
黒部ダムは、高さ186mで62階建てのビルと同じ高さです。アーチ状に伸びる横幅は500mあります。2億トンの水が溜まっていて東京ドームで160杯分あります。水はすべて発電用に使われています。
黒部ダムの発電所はダムから下流に10km離れたところにあります。10㎞離れていることでダムと発電所の高低差は545mとなり、この落差を利用して大量の水を流し発電しています。黒部ダムが秘境に作られた理由のひとつはこの高低差をつくるためでした。
黒部ダムは別の呼び方で「くろよん」と呼ばれていますが、これは黒部で4番目にできた発電所であったからです。
黒部ダムと第4発電所ができる前にも黒部の下流にはいくつか発電所があり、その電気量は約23万キロワットでした。黒部ダムができて電気量は約90万キロワットとなりました。現在は下流を含め10か所の発電所があります。
このように黒部ダムが秘境につくられた理由は落差をつけることに加え、大量の水を貯えて下流の発電所に水を流すためだったのです。
地質学的にみると黒部ダムの上流部分は両岸が同じ花崗岩でできているため水が均等に侵食して幅広く水が溜まりやすい地形になっています。
いっぽう黒部ダムの下流側は数種類の岩石が混じった地形です。水は異なる種類の岩石が隣接した部分にめがけて流れるため下流は細く下に削られ、上流と比べると落差があり川幅が狭い地形となっています。
よって黒部ダムの上流側は豊富な水をためるのに適していて、下流は水が狭く高低差の大きいところを勢いよく流れる、水のパワーを生み出すのに適しています。
つまり黒部ダムは川の幅が大きく変わる2つの境目に位置していて、地質学的にダムにとって最も適切な場所が選定され作られたのです。
黒部ダムからケーブルカーとロープーウエイで大観峰展望台に行くと黒部ダムを取り巻く地形が良くわかります。
展望台までのロープーウエイは支柱が一本もありません。これは雪崩によって支柱が壊れる恐れがあるためです。標高2000mあるこの付近では積雪が7mにもなります。
この雪が多いということで夏場の水の少ない時期でもゆっくり溶けた雪から水が流れたまっていきます。ですから雪が多いということも黒部ダムが秘境にできた理由のひとつです。
展望台は「立山連峰」にあります。展望台から黒部ダムを見下ろすとダムの反対側も3000m級の山が並んでいます。反対側は「後立山連峰」と呼ばれ、黒部ダムはこの2つの3000m級の連峰に挟まれた谷に位置しています。
この地域は2つの海のプレートが潜り込グマをつくっています。2つのプレートから同じマグマが生まれることは非常に珍しく、そのマグマの量は単純計算で2倍になります。地下にマグマが多いため地表付近は熱せられ柔らかくなっていました。
そこにプレートによって東西から力が加わったため地表が隆起してできたのが「立山連峰」と「後立山連峰」です。そして2つの連峰の間に地表の隆起と雨水の侵食でできたくぼみが「黒部渓谷」になります。
黒部ダムはコンクリートをなるべく使わないで済む「アーチ式」を基本としながら、両サイドは地形を考慮して「重力式」を取り入れたアーチ式と重力式の複合型で設計されています。
またアーチの中心部分も前のめりに傾いていて、水圧が固い地盤の下にかかるように設計されています。
ダムから放流している水が霧状になっているのは、もし滝のようにながしてしまうと水圧でダムの下の地盤をこわしてしまうからです。
黒部ダムでは6月下旬から10月中旬まで観光放流としてダムから水を放流しています。黒部ダムの完成により電力事情は改善され、日本は高度成長期に入り発展していきました。